衝撃のマイナス価格

NYMEX市場で取引されているWTI原油価格が4月20日終値でマイナス37.63ドルという衝撃的な価格を付けました。商品先物市場で市場価格がマイナスで引けたことは史上初ではないでしょうか。
新型コロナウイルスによる外出自粛で需要が大幅に減少しているということ、原油在庫が膨れ上がり貯蔵用のタンクの空きが枯渇しつつあること、納会日前日で現物を引き取れない取引参加者の投げ売りが出たことなど、複合的な要因があったと考えられます。
ちなみに日本市場(東京商品取引所)では先物価格がゼロ円を下回るということは想定しておらず、指値をマイナスで出すことができません。つまり、日本では理論値がマイナスであろうとも市場でマイナス価格で取引が成立することはないということです。
個人投資家が原油に投資する方法
個人投資家が原油に投資する方法は、原油先物取引、原油CFD、原油ETFの3つが主要な取引方法です。
※他にも原油に連動する企業(総合商社、原油元売り企業)や資源国通貨(カナダ、オーストラリア)に投資する方法もあります。


原油CFDと原油ETFは、原油先物取引にある限月をロールオーバー(限月の乗り換え)することにより、期限なく取引することができるために原油への手軽な投資方法として人気が高いです。
しかし、このロールオーバーは期近が安く期先が高いようなコンタンゴ(順ザヤ)の場合には注意が必要です。
コンタンゴの場合のロールオーバー

原油ETFは、期近物の売却資金で期先物を買うためコンタンゴの場合、ロールオーバー後の先物保有枚数(量)は減少します。コンタンゴの状態が続くようであれば、ロールオーバーの度に資産価値が目減りしていくことになります。
コンタンゴで利益を上げる方法
コンタンゴで利益を上げる方法は2つあります。
- 原油CFD、原油ETFを売る
- 原油先物取引でサヤ取引をする
①原油CFD、原油ETFを売る場合は、ロールオーバーのたびに安い期近を買って、高い期先を売ることになります。建玉に対してコンタンゴが有利に働きます。ただ、原油価格がコンタンゴの値幅以上に上昇してしまうと通算の損益はマイナスとなります。
②原油先物取引のサヤ取引とは、限月間の価格差を利用して利益を狙う方法です。同一銘柄の異なる限月のさやを狙う取引は「限月間スプレッド取引」(カレンダースプレッド)と呼びます。二つの限月のうち一つの限月を買い、もう一つの限月を売ることによって限月間の価格差の推移のみが損益となる取引です。
限月間スプレッド取引
限月間スプレッド取引とは裁定取引(アービトラージ)の取引の一つです。同一銘柄の異なる限月で売りと買いを同時に建玉(両建て)します。下記は2020年1月末の時点でドバイ原油の5月限と6月限で建玉して約3か月後まで保有した場合の取引例となります。
ドバイ原油5月限と6月限チャート

ドバイ原油5月限と6月限のカレンダースプレッドの取引例
1月31日 終値
5月限 38,180円
6月限 37,830円
価格差 350円
価格差は350円のバックワーデーション(逆ザヤ)でした。コンタンゴ(順ザヤ)の状況になると予測した場合は、5月限に売り建玉、6月限に買い建玉を持つことになります。
4月24日
売 5月限 16,480円 変動幅:-21,700円
買 6月限 18,350円 変動幅:-19,480円
価格差 -1,870円 変動幅:(-2,220円)
予測どおりにサヤがコンタンゴの方に2,220円動いた。
5月限の売建玉は1,085,000円のプラス、6月限の買建玉は974,000円のマイナスとなり、トータルの損益は111,000円のプラスになります。
カレンダースプレッドのイメージ

ドバイ原油20/05月限-20/06月間のサヤチャート

5月限と6月限のサヤが順ザヤ(コンタンゴ)の方向に拡大したことにより、その価格差を利用して利益を取ることができたということになります。

サヤ取引のシミュレーション
ドバイ原油20/08月限-20/09月間のサヤチャート

4月24日の原油の先限(9月限)とその次の限月(8月限)の価格差は-640円です。
8月限 20,110円
9月限 20,750円
価格差 -640円
今後、順ザヤ(コンタンゴ)が拡大すると予測する場合は、8月限を売り建て玉、9月限を買い建玉することになります。

サヤ取引のシミュレーション

同一銘柄の限月間の価格差の変化のみを損益として狙えるというのが「限月間スプレッド取引」の特徴です。

サヤ取引の証拠金と注文方法
商品先物取引には「商品内スプレッド割増額分」という「限月間スプレッド取引」に対応した証拠金制度があります。通常は原油の建玉1枚につき証拠金は360,000円となりますが、同一銘柄の異なる限月間の「売り」と「買い」の建玉については1セットで145,000円に減額されます。(2020年4月26日現在)
※会社によっては商品内スプレッド割増額分を採用していないところもあります。
また、同一銘柄の異限月間の価格差を指値として発注できるスタンダード・コンビネーション注文(略称SCO)という注文方法があります。例えば、SCOの売り注文を指値を-650円で発注した場合は、同一銘柄の異限月の売り建玉と買い建玉の価格差が650円に縮まった時に2つの建玉を一度に持つことができます。
スプレッド気配情報(フジトミ)

スタンダード・コンビネーション注文(略称SCO)については次の機会に詳しくご紹介したいとおもいます。

サヤ取引の注意点
- 期近になると流動性が低下して決済しにくくなる
- 手数料が2枚分必要になる
- 簡単そうに見えるけど実はかなり難しい
取引の開始時に期先で売りと買いをセットするのはSCO注文を使えば容易にできますが、期近に回ってくると流動性が低下してしまいおもうような値段で決済にしくくなります。納会限月まで持ち続けるというのは控えた方が良いでしょう。
建玉が2枚になりますので手数料は2枚分必要となります。
サヤ取引は低リスクで簡単そうに見えますが、サヤの予測というのは非常に難しいです。取引される際は過去のサヤの動きなどを十分に研究した上で取引されることをお勧めします。
